税務調査と聞くと、「脱税したってこと?」「玄関開けたら怖い人がたくさん立っていそう」など、かなりネガティブなイメージを持つ人も多いことでしょう。しかし意外かもしれませんが、会社に後ろめたいことがなかったとしても、税務調査が入ることはあり得るのです。そして税務調査が実際に入った時に慌てず対応するためには、普段から準備しておくことが非常に大切になります。
そこで今回は、税務調査が会社に入ることになっても慌てないために、基本的な流れと行うべき準備について詳しく解説します。
1.税務調査とは
税務調査とは、税務署などが管轄内の法人(会社)や個人の申告内容などを帳簿で確認し、誤りがないかどうか調べる手続きのことです。国税庁の発表によれば、2019(平成30)年度は、日本全国で99,000件の法人に対する税務調査が行われています。
参照:国税庁「平成30事務年度 法人税等の調査事績の概要」
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2019/hojin_chosa/pdf/hojin_chosa.pdf
1-1.強制調査と任意調査
税務調査は「どういう経緯で調査に至ったのか」を基準にすると、強制調査と任意調査の2つに分けられます。
強制調査とは、脱税の疑われる納税者に対し、裁判所の令状を得た上で、強制的に行う調査です。仮に、脱税行為が特定されれば、検察庁に告発され、刑事事件として処理されます。なお、証拠の隠蔽や逃亡を防ぐため、事前に通知は一切行われません。冒頭で触れた「脱税したってこと?」「玄関開けたら怖い人がたくさん立っていそう」という税務調査に対するイメージは、どちらかといえば強制調査からくるものでしょう。
一方、任意調査とは、税務調査官が有する質問検査権(税金に関する質問を納税者に行う権利)の行使の一環として行われるものです。つまり、提出された申告書に基づき、追加で質問をしたい場合に行われる税務調査と考えましょう。一般的な会社に対して行われる税務調査は任意調査であることがほとんどです。ただし「任意」とありますが、実際は税務調査を受けるのを拒否することはできません。もちろん税務署から提示された日程で調整がつかないようであれば、予定を組みなおしてもらうことは可能です。電話や文書で1週間前までには通知があるので、担当税理士とやり取りをして対応しましょう。
1-2.任意調査が入る会社の特徴
強制調査の対象となるのは、脱税額が1億円を超え、なおかつ悪質な仮装隠蔽工作がなされたと想定される事案に限られています。ですので会社が法に触れることをしていなければ、まずお目にかかりません。
しかし、自分の会社が次のいずれかに当てはまるようなら、税務調査が来ることを想定して準備しておくといいでしょう。
継続管理法人 | 過去の税務調査で不正が指摘された法人 |
循環接触法人 | 不審な点が多い法人や不正への加担が疑われる法人 |
周期対象除外法人 | 申告や納税に問題はなく、周期的な調査の必要はないものの、経営者が代わったり事業規模に変化があったりして、申告内容を解明する必要がある法人 |
会社がここ数年で急激に規模を拡大したり、新規事業を開始したりした場合は、特に要注意です。
2.税務調査の基本的な流れ
実際に税務調査が入っても慌てないようにするには、「一体何をするのか」を理解しておくことが重要です。基本的な流れを解説しましょう。
2-1.事前通知
通常、税務調査を実施する10日から1週間ほど前になると、税務署から会社および顧問税理士宛てに電話や封書で事前連絡があります。その際実際に税務署の職員が訪問して調査する(実地調査)の日程をすり合わせるという流れになります。通常、任意調査は2日間にわたって行われるので、2日間連続で空けられる日程を確保しておきましょう。
ただし、以下の2つの場合は例外として事前連絡なしに税務調査が行われるので注意しましょう。
・納税者が重加算税の対象となる脱税(仮装隠蔽)行為を行っていると想定されるケース
・飲食業や小売業など、不特定多数の者と現金決済で商売を行っているケース
また、予告なしに税務調査が行われることになった場合でも、慌ててはいけません。冷静に以下の対応をしましょう。
・事前通知なしで税務調査を行う理由を調査官に聞く
・顧問税理士に連絡を取り、対応を相談する
・仕事などの都合で税務調査の日程を延期してほしい場合は、調査官に延期を希望する理由を説明し、延期を丁重にお願いする
自分たちだけで対応が難しいようなら、顧問税理士に来てもらうのが一番です。
日程が決まったら、実際に税務調査に来る日まで準備を進めておきましょう。具体的に必要になる書類は、個々の会社によって異なりますが、一般的には次のものを用意しておくよう求められることが多いです。きれいにファイリングしたり、必要に応じてプリントアウトしたりして、用意しておきましょう。
・納品書
・領収書の控え
・請求書
・契約書
・総勘定元津陽
・稟議書
・議事録
2-2.質問事項への回答と帳簿書類の提出
予定された日時になると、税務署から税務調査官がやってきます。「質問されたことに答え、帳簿書類を見せてほしいと言われたら渡す」のが基本的な流れです。あわせて、税務調査官がどんな意図を持って質問し、帳簿のどんな部分に着目しているかを知っておくといいでしょう。
1.会社に関する情報の聞き込み
税務調査は会社の基本情報についての聞き込みから始まります。次の点については必ず聞かれるので、すぐに答えられるように整理しておきましょう。
・会社の沿革
・業務内容
・営業方針
・取引先の範囲や取引条件
・金融機関との取引条件
・役員及び幹部社員の氏名と職務の内容
・従業員の状況(責任者、従業員、従事内容)
2.売上計上のチェック
顧客との取引の際、受注から代金回収に至る一連の流れに対し、どのように管理・書類作成を行っているかがチェックされます。具体的には以下のポイントがチェックされるので、聞かれたらすぐに答えられるようにしておきましょう。
・受注伝票やメモの作成状況
・出荷・納品に関する台帳、納品書の作成時期
・運送手段と運賃負担の詳細
・請求書の作成に利用する情報、対応する担当者
・代金回収方法
・領収証の利用状況
同時に、売上に関する証票類の把握と帳簿等の照合も行います。次のポイントがチェックされることに注意が必要です。
・聴き取りで把握した証票類の保管場所の確認
・品名、数量、単価などの内容確認
・受注から商品などの手配、そして引き渡しまでの一連の流れ
3.仕入、外注費のチェック
売上の場合と同様、仕入についても発注から入庫、代金支払までの間の記録の仕方、伝票・帳簿類の作成・保管状況について聞き取り調査が行われます。また、業務の一部をフリーランスのデザイナー、ライターに委託しているなど、外注費が発生している場合も、発注から代金の支払いまでの一連の流れについてチェックされると考えましょう。特に、以下のポイントについてはチェックが厳しく入るので気を付けてください。
・納品書等に実在する住所、電話番号が記載されているか
・不自然な筆跡で作られたものや三文判を利用した納品書等がないか
・やたらと10,000円や5,000円といったキリがよい数字で作られた納品書等が多いか
・架空経費計上や、翌期の経費を前倒しで計上など、明らかに帳尻合わせで作られた納品書がないか
・取引金額に比べやたらと買掛金残高が高くないか
・遠隔地で単発取引をしていないか
4.現況調査・現金監査
税務調査の際は、現況調査・現金監査も行われます。簡単に言うと「実物があるかどうか」を調べることです。つまり
現況調査:社長および経理担当者の机や金庫・書類保管庫の中を調べ、脱税行為(重加算税対象)の証拠となる書類・現預金がないかを確認する
現金監査:現金出納帳残高と実際の現金残高が一致しているかを確認する
こういったことを確認する手続きと考えましょう。この作業を通じて「きちんと管理ができている会社かどうか」
がチェックされます。
5.人件費
人件費は架空計上が行われやすい項目の1つとして、税務調査官は重点的に調べます。
また、仮に架空計上する意図が会社側になかったとしても、制度についての無理解が原因で結果的に誤った処理をしてしまいがちです。
税務調査官は、以下の項目に注目していると考えましょう。
・源泉徴収、年末調整の有無
・社会保険の適用の有無
・各種控除の有無
・諸手当の支給の有無
これらを確認するために、給与(賃金)台帳や業務日報を調べます。
また、場合によって経理担当者以外への従業員への聞き込みをしたり、従業員が居住している地方自治体に対し、住民登録の確認をしたりすることもあります。状況に応じて必要な対応をしましょう。
6.反面調査と連携調査
税務調査においては、反面調査や連携調査が行われることがあります。反面調査とは、事実関係の確認をさらに確かなものにするため、取引先や銀行にいって確認を行うことです。
取引先との信用関係を壊さないようにするには、顧問税理士を通じて「任意調査だけど、税務調査が行われるので連絡がいくかもしれません」と一言断っておくことをおすすめします。
また、連携調査とは同族会社のある会社において、税務調査や取引関係の解明が困難とされる場合、関係会社とともに同時期もしくは直前直後に税務調査を行うことを指します。こちらも、顧問税理士を通じ「連絡がいくかもしれないので、よろしくお願いします」と断っておきましょう。
2-3.調査結果の説明と修正申告などの勧奨
税務調査が終了すると、結果が知らされます。申告内容に誤りがあったり、本来申告が必要であったにも関わらず、申告をしていなかったことがあったと判明した場合は、修正申告等が求められる場合があるので気を付けましょう。
実際は、税理士と話し合いをし、今後の対応を決めていくことになります。
3.税務調査前に行うべき準備
たとえ、何ら後ろめたいことがない会社であっても、会社の経営を続けている限りは、いつかは税務調査が入るものと思っていた方がよさそうです。過度に恐れる必要はありませんが、いつ税務調査が入ってもいいように準備しておくといいでしょう。事前に準備すべきことについてまとめました。
3-1.日常業務での税務調査対策
日常業務の経理処理を適切に行うことが、何よりも大事な税務調査対策になります。主要な項目について、チェックリストを作成しました。
項目 | 具体的なチェックポイント |
売上計上 |
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仕入、外注費 | 仕入、外注費の証票類の保存は確実に行っているか
証票類を紛失した場合は、速やかに支払先に証票類の再発行を依頼しているか 現金支払の場合は領収証等の保存を確実に行っているか 支払先からの請求書等の訂正事項が発生した場合は、支払先に必ず訂正した請求書の再発行を依頼しているか 仕入値引き等がある場合は経理処理漏れがないか 買掛金の管理は適正か 仕入、外注費計上済分で引渡し及び役務の提供が未完了の有無を確認しているか |
棚卸 |
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一般管理費 |
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その他 |
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また、申告書の作成についても、細心の注意を払う必要があります。いくつか気を付けるべき点を紹介しましょう。
・申告内容に異常係数がある場合は、その理由をできる限り詳細に記載する
・イレギュラー事象がある場合は、勘定科目内訳明細書の備考欄や事業概況説明書に、経緯や理由を詳細に記載する
・勘定科目内訳明細書は「その他」で埋めるのではなく、できる限り詳細に記載する
・解約してしまった預金口座がある場合は、解約した時点と経緯を備考欄に記載する
・過去数年において期末残高が同額の買掛金・未払金などがある場合は、理由を備考欄に記載する
3-2.税務調査の予定が決まってからの準備
税務調査の予定が決まってからは、顧問税理士と連携を取り、準備を行いましょう。
最低限、説明できるようにしておくべき事項のリストを作成しました。
項目 | チェック事項 |
事業概況等 | 会社概況や取引状況
遠隔地取引や単発などのイレギュラーな取引の有無 現金残高と現金出納帳の帳簿残高が一致しているか 法人名義の預金通帳等は、会社に保管されているか |
売上・雑収入関係 |
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仕入・外注関係 |
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期末棚卸資産関係 |
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人件費関係 |
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一般管理費 |
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その他 |
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3-3.顧問税理士がいない場合は?
会社によっては、特定の税理士と顧問契約を結んでいない状態にも関わらず、税務調査が行われることもあり得ます。税務調査では、税務調査官がかなり突っ込んだ質問をしてくるので、自分だけでは対応しきれないのも事実です。そのため、税務調査が実際に行われる日までに、スポット契約として立ち会いをしてくれる税理士を探すといいでしょう。探し方ですが、Web検索で「税務調査 スポット契約」と検索すると、対応してくれる税理士のWebページが表示されるので、連絡を取りましょう。もちろん、知り合いや取引先のつてを頼っても構いません。
おわりに
いかがでしたでしょうか。今回の記事では税務調査の基本的な内容から、調査に備えて準備しておけること、注意点など詳しくご紹介しました。もし税務調査が入ることになっても慌てず、また取引先などから不信感を持たれないためにも、適切に対応を行うことが大切です。
調査が入りやすい会社の特徴から、日常業務上での調査対象、調査が決まってから準備しておくことなど、それぞれリスト化して詳しく説明してありますので、ぜひ一度確認して今後の参考にしていただければと思います。