「健康管理も仕事のうち」とは言われますが、どんなに気を付けていても病気やケガをすることはあります。特に、昨今は新型コロナウイルス感染症の流行や、異常気象による熱中症など「気を付けていたとしても、病気になってしまう」可能性は今まで以上に増えています。

もちろん、2~3日程度で復活できそうな程度の病気・ケガであればさほど気にすることはないでしょう。しかし、これが長期間の入院になった場合は話が変わります。「自分が不在の間、担当していた仕事をどのようにして振り分けるか」はもちろん「働けない間の収入をどうするか」も考えなければいけません。

しかし、会社勤めをしているなど「雇用されて、給料をもらって働いている人(給与所得者)」かつ「勤務先で健康保険に入っている人(厚生年金加入者)」であれば、傷病手当を受け取ることができます。

今回は、この傷病手当金について

・支給条件
・支給規程
・申請する手順
・その他の注意点

に分けてそれぞれ詳しく解説します。

1.傷病手当の基本

傷病手当とは「業務外(=仕事とは関係ない、プライベート)での病気やケガが原因で働けなくなった場合、被保険者およびその家族の生活を保障するために設けられた制度」です。一定の条件に当てはまれば、加入している健康保険組合から手当金が受け取れます。

1.支給条件は?

つまり、傷病手当を使えば、病気やケガで働けなくなった場合にも一定額の収入は入ってくるということです。実際に受け取るためには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。

1.業務外での療養を要する病気やケガである

一口に「病気やケガをした」と言っても、それが仕事中のことなのか、プライベートで起きたことなのかによって扱いが異なります。そもそも、仕事中の病気やケガは、労働災害保険による補償が受けられることから、傷病手当金の支給対象とはなりません。実際の手続きも労働基準監督署のやり取りを前提に進めます。

一方、傷病手当金の場合は「業務外での」という文言からもわかるように、仕事とは関係ない場面で起きた(例:旅行中にスノーボードをしていてケガをした)病気・ケガが前提となります。

2.病気やケガの療養で仕事に就けない

そもそも、傷病手当金の目的の1つが「病気・ケガの療養中の収入補償」である以上、「被保険者がそれまでにやってきた仕事ができない状態にあるか」も、支給する上での条件に含められます。

なお「仕事ができない状態にあるか」は、医師の診断に基づき決めなくてはいけません。被保険者の自己診断・自己申告で決めて良いわけではないので注意しましょう。実際は、医師から「しばらく出社は難しそうなので、会社の担当の方に連絡していただけますか?」など、具体的な話があれば、傷病手当金の申請ができると考えて良いでしょう。

3.連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかった

傷病手当金が支払われる条件の1つに「待期期間3日間が成立したあとの4日目以降」があります。簡単に言うと「4日以上連続して仕事を休む羽目になった場合」と考えましょう。なお、待期期間3日間のカウントは

・土日も含む
・有給・公休扱いにしても良い
・欠勤扱いにしても良い

など、細かい扱いがあります。

最も大切な条件は「4日以上連続して仕事を休む状態である」なので、注意しましょう。仮に「今日はちょっと体調が良いので、出勤して仕事をしてみよう」と仕事に出てしまうと「4日以上連続して仕事を休んだ」ことにはなりません。

4.病気やケガで休んでいる間に給料が支払われていない

傷病手当金は、病気やケガで会社を休んでいる(休業)間の生活費の補償のために、加入している健保組合から支払われるものです。そのため、病気やケガで休んでいたとしても「有給が余っていたので最初のうちはそれを充当することにした」などの理由で、給料が払われる状態だった場合、傷病手当金は支給されません。

また、会社によっては、病気やケガで休んでいたとしても、給料の一部が支払われるケースもあります。その場合、傷病手当金として本来支払われる額より少ない場合にのみ、差額が支払われると考えましょう。

2.傷病手当金の支給規程

傷病手当金には

・支給される対象
・支給される期間
・支給される金額
・そのまま会社を辞めることになった場合の扱い

などが規程として存在します。

1.支給される対象

給される対象は「勤務先で社会保険制度に加入している人」です。会社員(正社員)や公務員はもちろん、パート・アルバイト、派遣社員・契約社員であっても、勤務先から健康保険証を受け取っている(健康保険に加入している)のであれば、対象となります。ただし、派遣社員の場合「派遣元となる派遣会社が加入している健康保険組合」に対して手続きを行うことになるので、違いを覚えておきましょう。

2.支給される期間

「支給開始から最長1年6カ月」です。仮に、その間に体調がよくなって出勤し、給料が受け取れていた日があったとしても、その分期間が延長されることはありません。また、支給開始から1年6カ月経過しても回復せず、仕事に復帰できない場合も、傷病手当金は受け取れないので注意してください。

3.支給される金額

厳密には、次のように計算します。

(支給開始前の過去12カ月の各月の標準報酬月額を平均した額)÷ 30日 × 2/3 = 傷病手当金の支給日額

イメージとしては「給料の3分の2くらい」と覚えておけば良いでしょう。

4.そのまま会社を辞めることになった場合の扱い

病気やケガの回復が芳しくなく、そのまま会社を辞めることになった場合でも、傷病手当金の支給は受けることができます。ただし、退職日(健康保険の加入期間の最終日)が入社から1年未満の場合、退職した時点で傷病手当金の支給は停止されるので気を付けてください。

・入社から1年未満で辞めることになりそう
・勤続年数は長いが、病気やケガの状態が思わしくなく、仕事に復帰できそうにない

場合は、早めに医療機関のソーシャルワーカーに相談し、障害年金など他の制度を利用して生活費の足しにできないか探りましょう。

3.傷病手当金を受け取るための手続き

仮に、従業員の中に「病気・ケガでしばらく仕事を休まないといけない」という人が出た場合、会社としても「傷病手当金を申請してはどうか」と提案するのも一案です。そのため「何をすれば傷病手当金を受け取ることができるか」は、一通り把握しておきましょう。

1.支給申請書の取り寄せ

まず従業員からケガや病気で会社を長期間休むという報告があったら、加入している健康保険組合の窓口に問い合わせて、傷病手当金支給申請書を取り寄せてください。昨今は専用のWebページからダウンロードし、印刷して利用できるケースも多くなっています。

2.「被保険者記入用」部分の記入

傷病手当金支給申請書を取り寄せたら、従業員に「被保険者記入用」部分を書いてもらうよう伝えましょう。仮に、病気やケガの影響で意識不明の状態になったり、最終的に亡くなってしまったりした場合など、本人が対応できないケースは配偶者などの家族が対応します。

・被保険者証の記号、番号または個人番号
・被保険者の業務の種別、期間
・被保険者の住所、氏名、連絡先
・振込先指定口座
・相続人が申請する際には代理人の住所、振込口座

3.「療養担当者記入用」の記入

次に、従業員または家族に、病気やケガの治療でかかっていた医療機関に「傷病手当金を申請したいので」と伝え、傷病手当金支給申請書の「療養担当者記入用」部分を記入してもらいましょう。

・傷病名、その原因、発病または負傷の初診の年月日
・治療機関ではなく、療養のため労務に服することができない期間と日数、見込み期間など
・医師意見書(症状、経過、労務不能と認められた医学的な所見を詳細に記入する)

医療機関によって、かかる日数や費用はまちまちなので、その都度確認してください。

4.「事業主記入用」の記入

会社が書く部分が「事業主記入用」です。主な項目として、次のものを書きます。

・労務に服することができなかった期間を含む賃金計算期間(賃金計算の締日の翌日から締日の期間)の勤務状況
・給与の種類
・賃金計算の締日または賃金の支払日
・労務に服することができなかった期間を含む賃金計算期間の賃金支給状況

5.傷病手当金の支給申請

ここまで紹介してきた

・被保険者記入用
・療養担当者記入用
・事業主記入用

の3種類の書類が揃ったら、健康保険組合に書類を提出します。基本的には、事業主=会社を通じて提出しますが、「休職中で来社するのが難しい」などの理由がある場合は、被保険者=従業員本人が提出してもかまいません。

4.その他の注意点

傷病手当金の申請手続きを簡単にまとめると「必要な書類を揃えて健康保険組合に出す」だけです。しかし、細かい部分での注意は必要なので気を付けましょう。よく、疑問に思われがちなトピックを紹介しておきます。

1.待期期間3日間に有給を使うのはあり?

既に触れた通り、傷病手当金は「療養のために3日以上連続して休業したのちに、4日目以降から支給される」ものです。しかし有給が余っていた場合は、休業3日目までは充当しても構いません。また、例えば「土曜日にスポーツクラブに行ったら転倒して大ケガをした」など、療養の開始日が土日祝日などの公休日であったとしても、待期期間に含めることができます。

2.申請の都度担当医師の証明が必要

傷病手当金は、申請の都度医師による証明が必要になります。つまり、毎回書類を提出して手続きをしなくてはいけないということです。「〇カ月に1度」という申請スパンは、加入する健康保険組合によって扱いに差があるので、確認しましょう。ただし、詳しくは後述しますが、実際に振り込まれるまでにはそれなりに時間がかかります。療養が長くなりそうな場合は、毎月申請した方が資金繰り的にも楽でしょう。

3.申請から給付までの期間はまちまち

これは、加入している健保組合によって異なる部分もありますが、申請してからすぐに傷病手当金が振り込まれることはありません。早くても2週間、遅いと2~3カ月くらいかかることもあるので注意しましょう。

なお、一般的な傾向として、初めて傷病手当金を申請する場合は、書類の審査に時間がかかるため、振り込まれるまでの期間は長くなります。しかし、2回目以降は審査に係る期間も短くなり、振り込まれるまでの期間も短縮されるようです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は傷病手当について詳しくご紹介しました。

どんなに健康管理にどんなに気を付けていても病気やケガをすることはあります。回復までに一定期間を要する場合、給与の心配が出てきますが、給与所得者かつ厚生年金加入者であれば傷病手当の対象となりサポートが受けられます。

支給条件や申請にはそれぞれ細かい条件がありますので、しっかりと確認しておくことが重要です。
今後に備えるためにも、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。

 

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